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おなみだぽいぽい

書籍の装画などを中心に活躍するイラストレーター・後藤美月さんが作った初めての絵本『おなみだぽいぽい』。学校の授業で先生の言うことが一人だけわからなかったねずみの女の子が、悲しい気持ちを抱えてひとり屋根裏へ行くと涙がぽろりとこぼれ落ちます。隠してあったパンのみみをハンカチ代わりに涙で湿らせて、それを天井の穴めがけて思い切りぽーいっと投げると、屋根の上にいた鳥がパンのみみをキャッチします。鳥はそっけなく塩気が足りないとコメント、するとねずみの女の子は意外な行動をとるのですが…続きはぜひ絵本を手にとってご覧ください。

後藤さんがずっとあたためてきたこのお話は自身の体験がベースになっています。周りは楽しそうなのにひとりぼっちな気持ち。どうやって解消すればいいのかわからないモヤモヤした気持ち。ナイーブでセンシティブな子ども時代を過ごしたことのある人にじわっと響くストーリーです。その一方、誰にでも受け入れられる絵本ではなく、実際に後藤さんがお知り合いに絵本を見てもらったところ、うまく共感してもらえなかったことがあるそうです。それでも、たとえ100人のうち1人にしか共感してもらえなかったとしても、その人に届くことができたらという想いが込められています。


原画ではコラージュを取り入れて描かれている様子がよく分かります。ちょっとノスタルジックで温かい絵は何年経っても色あせない魅力がありますが、わくわくする楽しいストーリーではないし、感動や教訓、明確なメッセージが込められているわけでもありません。それでも、そんな絵本だからこそ胸に静かに届くものがあります。小さなお子さんにはねずみの女の子の感情がまだ分からなかったとしても、いつかその日が訪れたときにすっと寄り添ってくれる一冊です。

2018-02-14 | Posted in BOOKSComments Closed