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傘下

文字や印刷物をテーマに作品を発表するアーティスト 立花文穂さんが、故郷・広島を撮影し、自ら製本した写真集『傘下』。

写真集にも登場する書の作品二点、その一点は見開きページで使用されているのですが、共に並ぶ写真は、8月6日の夕方、たくさんの人が灯籠流しに参加している風景。「人間(七)」というタイトルがついたその書の作品は、75年前のその日、水を求めて集まった人、人、人、強力な高熱線によって地面に焼き付けられた人の影を想起させます。

大国の傘の下、発展し続けたこの国で、惨禍を語り継ぐ地元ヒロシマの光景。そのような読み方ができる一方で、立花さん自身のとてもパーソナルな物語として読むこともできます。それは、製本所を営んでいた立花さんのお父さんが、原爆死没者名簿の製作を担当していたということ。

毎年、その年に亡くなられた被爆者の方の名前が記帳される原爆死没者名簿は、広島平和公園の慰霊碑の下に奉納されていて、市職員によって年に一度「風通し」という作業が行われます。人が手を合わせて祈る「本」。慰霊の念が込められた「文字」。お父さんが製作し、そして記帳もされている名簿を撮り続けることは、立花さん自身のルーツと向き合うこと。本が、文字が、人であることを誰よりも感じているのではないでしょうか。

雨で濡れたようにつややかな表紙のタイトルは黒の箔押し印刷。広島を写し、広島で製本された写真集です。

2020-10-10 | Posted in BOOKSComments Closed