THANK YOU

六年目・六月の本屋考

6月は本屋を営む方々とトークイベントに出演する機会が重なりました。『ことばが生まれる景色』原画展のトークイベントではTitleの辻山良雄さん。5周年企画でお招きした古巣B&Bのオーナー内沼晋太郎さん。「プチ中四国本屋会議」では、高松の完全予約制の古本屋・なタ書の藤井佳之さんと、トーク会場にもなった横川の呑める古本屋・本と自由の青山修三さん。

辻山さんは自分が本屋を始めるきっかけとなった、リブロ広島店を形作った人。そのことを知ったのは、Titleオープンの少し前でした。幻冬舎ウェブマガジンの連載でも触れられていますが、時間と場所を超えて繋がっていくことが嬉しいです。連載に出てくる男性はうちにもよく来てくれるお客様で、トークイベントには奥様と一緒に参加されていて、感慨もひとしおでした。

5年前のオープン直後にもトークゲストとして来てくれた内沼さん。何かと暗い書店業界に軽やかなアイデアを提示し続けるお話はより深化していました。雑誌『ユリイカ』での論考(内沼さんのnoteに全文掲載される予定)には勇気をもらい、下北沢のまちづくりの話や精力的に取り組む出版事業の話に刺激をもらいました。

個性的な古書店を営む二人を交えた鼎談では、仕入れや売上など普段は聞けない突っ込んだ内容で盛り上がりました。古書と新刊という違いはあれど、予約制だからできる藤井さんの働き方には目から鱗で、新刊書店勤務を経て語られる青山さんの生き方に共感。二人の味わいに魅了される一夜、主催のあいだprojectさんにも感謝です。

それらのイベントを受けて最近考えた本屋考、まとめきれていないのですが、思うままに書き記してみました。

読書という行為は「視覚」、目という感覚器官を使うことであり、PCモニターやスマホと相性が良い。「視覚」を用いて知識や情報を提供する本は、紙に印刷されなくてもオンラインで何処へでも届けることができる。音楽を楽しむための「聴覚」も電子機器との相性は抜群。そもそもデジタルデータのCDが、音楽配信サービスの普及に圧されるのは道理とも言えてしまう。

しかし、0と1の二進法で構築されるコンピューターの世界。どんなに素晴らしい絵や音楽も、モニター画面上で見たもの、PCのスピーカーで聴いたものは、結局は0と1という記号の集合体であり、それを脳がそのように変換しているのではないか?そのような変換行為には無意識のうちに微細なストレスが生じているのではないか?というのは、先日のトークイベントでnakabanさんから聞いた仮説。非常に説得力のある話だと思う。原画を観る。ライブで演奏を聴く。「本物」に触れたときに感動は押し寄せる。

さらに話を進めると、PCやスマホがアクセスできない「味覚」「嗅覚」「触覚」を体感できるのは、リアルの強みだ。料理教室や読書会など「イベント」と言ってしまうと月並みだけど、本屋も五感にアクセスできる可能性を秘めている。

人との出会いもその一瞬一瞬、感覚をフル活用している。店そのものが「人」である個人店はチェーン店に比べて、店主とお客さん、お客さん同士といった関係性が生まれやすいところが魅力だと思う。もちろん「人」だからこそ相性の良し悪しはあって、苦手な店もあるけれど、そういうところも含めて面白い。お気に入りの喫茶店、仕事帰りに立ち寄るBAR、馴染みのレコード店、月に一度の床屋。そんな行きつけの場所の一つに本屋が含まれていると嬉しいし、それはとても豊かだ。

と、ここまで書いてみて、愛すべきキャラクターの店主がいつも店にいることこそ、実は一番の魅力だったりするのではと気がつきました。ゆるくてちょっとダメ(褒め言葉)でそこが格好良かったりする、二人の古書店の店主のことを思い浮かべると、どんなに本屋論を語っても結局かなわない気がします。ちょっとズルイなあ。

2019-07-04 | Posted in THANK YOUComments Closed