EXHIBITION & EVENT
ckinoco 企画展「特別なあたりまえ」

今年、原爆が投下されて80年。僕の父親も80歳になる。
遠く離れていても、帰る場所は広島。僕にとってここは、「あたりまえ」が詰まった街だ。
あたりまえに歩く道、あたりまえにいる親、あたりまえの平和。だけど、「あたりまえ」って、一体なんだろう?
父・小平直人は、広島の繁華街で寿司屋を営んでいる。
その店には、ヤクザ、政治家、医者、教授、風俗嬢、サラリーマン、外国人、赤ちゃんや子どもまで、誰もが同じカウンターで寿司を食べている。外では、多くの人がネオンの下で騒ぎ、笑っている。
世界には、砲弾の音を聞きながら電気すらない生活をしている国もある。「日本は平穏だなあ」と、つくづく思う。
明け方、人通りも少なくなり、店のゴミを外に出したとき、ふと白んだ空を見上げて思う。
「たった80年前、ここは焼け野原だったんだ」と。
僕の「あたりまえ」は、そんな場所にある。この店や、そこに集うたくさんの人たちが、僕を育ててくれた。喧嘩もあったし、事故もあった。でも、この場所を焼け野原に変えるほどの原爆に比べたら、些細なことだ。そんな「あたりまえ」が、いつまで続くのかはわからない。時代もあるし、自分の年齢もそう。
今、それを考えるタイミングなんだろう。
この展覧会では、広島で半世紀以上寿司を握り続けてきた小平直人と、彼の店を訪れた人々の姿を、当時の写真とともに振り返り、戦後から今日までの80年を見つめ直したい。幼少期や、開業前後の記念写真、店内でのスナップ、テレビ出演時の写真などを通じて、広島に生きる日常の風景が浮かび上がってくる。
そしてもう一つ。
動き続ける人々とは対照的に、言葉を発さず、じっとこの街の復興と変化を見守ってきた存在が「被爆樹木」だ。広島市内には、いくつもの被爆樹木がある。街路樹のように立っている木もあれば、私有地にあり目立たない木もある。いつも通り過ぎてしまう「あたりまえの木」かもしれないけど、彼らは原爆を耐え抜いた、あの日の証人でもある。そんな木々には、いつでも会いに行けるし、触れることもできる。
歴史の傷跡を残す自然が息づくこの街は、はたして本当に「あたりまえの街」なのだろうか。
そう考えれば考えるほど、広島の人や街は「特別」な存在に思えてくる。そんな特別なあたりまえを、僕は心から愛している。
この思いに賛同してくれたckinocoのメンバーとともに、僕たちの「あたりまえ」を見つめ直す展覧会を開きます。
ckinocoのメンバー
小平篤乃生
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小平篤乃生(コヒラアツノブ)
広島生まれ。現代アーティスト。フランスを拠点に国内外で活躍。「あらゆるメディアや歴史は緩やかに絶え間なく繋がっている」という考えのもと、考古学とは別の視点や解釈からの歴史を提示し、国家が成立する前の人間の営みや自然との共存を探し求め、五感を喚起させる体感的な場と作品をつくり続けている。
https://atsunobukohira.wordpress.com/
柳川敬介(ヤナガワケイスケ)
広島生まれ。ハンサムを設立。アートディレクション、デザインを行う。また「価値のなくなったものを価値あるものにする」という考えのもと自主制作も行う。http://8036.jp/
会期中は同じく広島出身のアーティスト 立花文穂さんデザインのすし庵手ぬぐいと、お店でも使用される新デザインのすし庵湯呑、被爆都市手帳も販売します。
ckinoco 企画展「特別なあたりまえ」
会期:7/29(火)-8/4(月)