TABLEWARE

成田周平の土器的陶器

成田周平さんが作るうつわには表面に無数の線が刻まれたものがあります。この線刻は手びねりのあと乾燥した表面の形を整える際に、ギザギザの刃物で削ったときにできたもの。装飾文様というより作業の一つとしてランダムに刻まれた線。さらに水で溶いた釉薬で磨きあげて得た鈍い光沢、そしてコロンとした愛嬌のある形。見たり触ったりしているうちに、先日終了した展示のテーマとして考古学的要素のある架空のストーリーを思いつきました。

発掘調査のため来日した考古学者ショーン・ヒタリー博士(Prof. Shaun Hitarey)は偶然立ち寄った多治見で思わぬ出会いに遭遇する。手びねりで成形された表面はよく磨き込まれていて手にすると思いのほか軽い。一見すると土器のような印象を受けるが、高い温度で硬く焼き締まっているため、現代生活の器としてまったく遜色がなく、野生味のある趣を楽しむことができる。今回一群の器のなかで、これまでにないタイプが発見される。それは見る者に「天体」を想起させる、星への祈りが形となった器だった。

レポート1
今回見つかった器のなかで一際目を引くグループが滑らかな肌を持った白色の陶器だ。調査の結果、一度焼成した後に白漆(白色顔料を混ぜた漆)を塗り低火度で焼いていることが判明した。これは陶胎漆器と呼ばれ、縄文時代にも用いられた技法である。漆を焼き付けることで表面には細かく複雑な変化が生じ、堅牢性が向上している。一刻も早い年代測定調査が待たれる。


レポート2
円筒状の胴体に頭部のようなパーツが付いたこのタイプはその形状から土偶もしくは祭器ではないかという意見も挙がったが、大きさ/色/形に個体差はあるものの、上下逆さにするといずれも器状になり自立することから、液体を飲むためのカップという説が現時点で有力だ。縄文時代中期にはブドウ果汁を発酵させた飲料(液果酒)がつくられ飲用に供されていたとも言われているが(Wikipedia調べ)、このカップも酒器として使用されていたのだろうか。

レポート3
今回の調査で特に私の心を騒がせたのが、星雲、惑星、そして宇宙に散らばる様々な天体を想起させるこの一群の器だ。小さな宇宙のようであり、地球の記憶を宿した石のようでもある。縄文時代には高度な天体観測が行われていたという説もあるが、その真偽に関わらず、この器そのものに惹かれている。そろそろ年代測定の結果が出るようだ。


レポート4
年代測定の結果、驚くべきことにこれらが制作された時期は現代の2018年ということが判明した。詳細な調査により作者は成田周平という男性で、彼は土器に魅せられつつも、日常での使いやすさを考慮した焼き締めの陶器でそのプリミティブな存在感を表現している。一つ一つ手びねりで丹精込めて作られた土器的陶器、これからも注目していきたい。

ショーン・ヒタリー(Shaun Hitarey)

と、レポートを届けてくれたショーン・ヒタリー(Shaun Hitarey)という架空の人物は、成田周平(Narita shuhey)のアナグラム。成田さんにとって初めての個展にも関わらず、このような変化球を盛り込むことを快諾していただきました。それは、テーブルウェアとして使いやすい焼き締めの陶器で、野性味溢れる土器の質感を追い求めている、強いこだわりを持ちつつもガチガチにならない、ある意味で“ポップ”な柔軟さを併せ持った、作家としてのスタンスとも通じるような気がしています。ここ一年で作る物の変化も大きい成田さん。今後どのように進化していくか楽しみな作家です。

2019-01-05 | Posted in TABLEWAREComments Closed