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Ground

「土地の記憶」をテーマに長崎の風景を撮影した写真家・佐々木知子さんの『Ground』。表紙の一枚「稲佐山から爆心地を臨む」、この一枚を撮ったと同時に佐々木さんに「Ground」という言葉が去来し、そこから写真集の製作が始まりました。

ページを初めてめくった時、電車内のつり革、ブラインド越しの風景、車のいない道路などその一枚だけでは「長崎」と直結しないような、言い換えると、写真集として編まれることによって意味を持つ写真が多く収められていると感じました。しかし、巻末のキャプションを確認し、場所の意味に触れ、改めて見返すと、あることに気づき始めました。

写真は、シャッターを押した「その瞬間」だけでなく、否応なく「過去」と繋がっている。そこに写された何気ない風景は原子爆弾で廃墟となった過去を持ち、その街が経験した過去の上に人々は「今」を築き生きている。

写真は、そのイメージについての知識や情報量で受け取り方が変わるけれど、佐々木さんは声高に主張することなく、だけど胸に残るコントラストで、何気ない街角にも積み重なった「土地の記憶」に触れる余地を読者に与えていると感じています。そしてそれは自分たちの身近な風景に想いを巡らす契機にもなっていきます。

土地が記憶した悲しみの過去を忘れない。誰もが知っているモニュメントだけでなく、ありふれた風景を前に想いを馳せる、祈りにも通じる一冊です。

寄稿:根無一行(宗教哲学者)
デザイン:漆原悠一
翻訳:前野有香
発行: t e n t o

H263×W191mm 104 ページ ハードカバー 日本語/英語
500部

¥4,500 +税(WEB SHOP

2019-08-09 | Posted in BOOKSComments Closed