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Ground

「土地の記憶」をテーマに長崎の風景を撮影した写真家・佐々木知子さんの『Ground』。表紙の一枚「稲佐山から爆心地を臨む」、この一枚を撮ったと同時に佐々木さんに「Ground」という言葉が去来し、そこから写真集の製作が始まりました。

ページを初めてめくった時、電車内のつり革、ブラインド越しの風景、車のいない道路などその一枚だけでは「長崎」と直結しないような、言い換えると、写真集として編まれることによって意味を持つ写真が多く収められていると感じました。しかし、巻末のキャプションを確認し、場所の意味に触れ、改めて見返すと、あることに気づき始めました。

写真は、シャッターを押した「その瞬間」だけでなく、否応なく「過去」と繋がっている。そこに写された何気ない風景は原子爆弾で廃墟となった過去を持ち、その街が経験した過去の上に人々は「今」を築き生きている。

写真は、そのイメージについての知識や情報量で受け取り方が変わるけれど、佐々木さんは声高に主張することなく、だけど胸に残るコントラストで、何気ない街角にも積み重なった「土地の記憶」に触れる余地を読者に与えていると感じています。そしてそれは自分たちの身近な風景に想いを巡らす契機にもなっていきます。

土地が記憶した悲しみの過去を忘れない。誰もが知っているモニュメントだけでなく、ありふれた風景を前に想いを馳せる、祈りにも通じる一冊です。

寄稿:根無一行(宗教哲学者)
デザイン:漆原悠一
翻訳:前野有香
発行: t e n t o

H263×W191mm 104 ページ ハードカバー 日本語/英語
500部

¥4,500 +税(WEB SHOP

2019-08-09 | Posted in BOOKSComments Closed 

 

other mementos

宙に浮いているようなガラス瓶の上の青りんご。遠近感が掴めないフェンス越しのテニスボール。とるに足らない車窓の景色の前でぼやけて浮かぶ女性の横顔。人気のない街角。剥製なのかも分からない無言の動物たち。見慣れないイメージの連続はまるで白昼夢の世界。

広島出身の写真家・幸本紗奈さん初めての写真集『other mementos』。本来ならばピントが当たるべき部分の焦点はずれ、思わぬところでピントが合った、不明瞭な写真ですが、居心地の悪さは微塵も感じられず、むしろ既視感を覚えます。ああ、これは物思いにふけるときの目線の先に似ている。意識と無意識の間で視覚が捉える不思議な世界。

幸本紗奈さんがシャッターを切る瞬間、なぜそこに目を向けたのか分からないまま、はっきりとしない「予感」を撮影するそうです。暗室作業は彼女にとって重要で、同じネガフィルムを色味を変えて何枚も現像したり、時間をかけて写真と向き合ううちに、その予感した美しさに気づくのだと言います。

そのためか、作品に明確なテーマはありません。また、写真の意図を読み取る必要はないと言います。「心を鎮めてみてもらえたら」と。しかし読み取ることがそもそも難しい。ホテルのような部屋の中、ガラス瓶の上の青リンゴ、博物館で展示された石像など被写体は様々ですが、いつ撮影されたのか、昼なのか夜なのか、国内なのか海外なのかといった、日時や時間や場所といった情報が排除されています。テーマもなく、具体的な情報も感情表現もない写真を前に、少し戸惑いながらも、ただぼんやりと眺める。抑揚のないイメージだからか、見続けていても不思議と見飽きません。

観る者にとって何の関係性もないはずの一枚の写真が、ある瞬間に心の奥底にある何かと結びついて、懐かしさや物悲しさ、嬉しさ、音や匂いなど、特定の感覚を思い起こさせる。幸本さんは、写真という表現を通して、感覚的なものを呼び覚ます何かを探ろうとしています。

幸本さんの写真を初めて見たのは3年前の本と自由での個展でした。次は今年の2月、ふげん社で行われていた個展にも出張に合わせて運良く足を運ぶことができました。そして6月下旬、Baciの内田さんから届いた「広島出身の写真家の本を作っているので、販売や展示のことなど、相談させてもらえませんか」というメール。そこに幸本さんの名前を見たときの驚きと興奮、そして完成した本を見て納得しました。

何度も話し合い、小手先の売りやすさに走らず、写真家の「曖昧さ」までをストレートに形にした写真集。 Baciがこれまで刊行した安西水丸さん今井麗さんの素晴らしい2冊の作品集に引けを取らない強度があります。

明快さもなく強烈さもない、ぼんやりとした曖昧な写真群に、彼女の際立った作家性が現れています。表紙カバーの色も透明なエンボス文字もミステリアス。ページをめくり心を鎮める視覚体験を共有してみてください。

A4判変型(H210☓W180mm)上製本 48ページ オールカラー
掲載作品点数23点 デザイン:村橋貴博(guse ars)
700部限定

4000円+税(WEB SHOP

2019-08-05 | Posted in BOOKSComments Closed 

 

書体 shape of my shadow

ポスターやロゴのデザイン、書籍の編集などを手がけるグラフィックデザイナーであり、紙や文字や本をテーマに国内外で作品を発表するアーティスト 立花文穂さん。

立花さんが手がけてきた文字の作品は、路上に落ちいている紙屑や作業場の床に散らばった紙切れの海から、“文字どおり”文字を拾い集めたコラージュや、数字やアルファベットや記号の活字を「とめ / はね / はらい」といったパーツとして組み合わせ、漢字や平仮名として再構成した活版印刷のアートワークなど、唯一無二のタイポグラフィです。

色褪せて所々汚れた紙の上で、見向きもされなくなったアノニマスな文字たちが糊やテープで切り貼りされて踊り出し、使われなくなった活字や罫たちが大胆なレイアウトで再びインクを身にまとう。ざらざらガサガサと紙の手触りや、物理的な積み重なりを眼で感じる作品です。

今回ギャラリースペースで展示中の新作のタイトルは「書体」。ストレートに解釈すると「フォント=文字」ですが、前述した作品とは異なり、文字として認識することができません。

高校生のころ石や銅に彫られた文字を

真似て筆で書いた。

文字が生まれるときのことを考えた。

ぼくは知らなかった線や形が不思議だった。

作品集『書体』の序文には、書道を学んでいた高校時代のエピソードが短く記されています。絵から生まれた漢字。絵だった頃の文字(象形文字)。文字以前の文字。筆を持ち、ビンテージの新聞用紙の上に、文字のような何かを墨で書く。そうして生まれたカタチは原始生命体のようなもの、読めそうで読めない文字未満のものなど、白と黒の世界で上下左右を自在に泳ぐ不思議なカタチ。

素材を元に作られるコラージュや活版印刷の作品と異なり、内側から訪れるイメージを身体の動きに変換し、指先から筆に伝え、書く。「書く体」が残したものは、立花さんの残像=影のカタチなのでしょうか。序文の締め括りで一つの答えが記されています。また、その余白も含めて立花さんのグラフィックデザインの原初的な萌芽のカタチでもあるように感じます。

立花さんのご実家は製本業を営んでいたこともあり、当時の製本機械を使用して、作品集を自ら手作業で製作しています。一枚一枚紙を折って順番に重ね、ガシャンガシャンと一枚一枚機械で束ねて綴じ、背の膨らみを押し潰し、重しを載せて平らにならし、糊を塗り表紙を貼ってようやく出来上がる、本という物体そのものが立花さんの作品でもあります。

¥3,750+税 350部限定
WEB SHOP

2019-03-30 | Posted in BOOKSComments Closed 

 

ワンダーウォール

「老朽化による耐震性の問題」「誰もが安心できるクリーンで安全な建物」。物理的に合理的な言葉の前に、「歴史が積み重なったかけがえのない場所」「醸造された文化的な雰囲気」といった曖昧な言葉はかき消される。例えば、現在工事中の横川駅の高架下や、9月末までに寮生全員の退去を求めている京大の吉田寮のように。

学生の街・京都を舞台に、廃寮の危機に瀕した学生寮に住む学生たちを描いたドラマ『ワンダーウォール』公式写真集。脚本を書いた渡辺あや、本書の写真を撮影した澤寛のほか、内田樹、大友良英による寄稿、ドラマのシナリオも収録。

7月に放送された後、多くの反響があり、先日も再放送されたこのドラマ、見過ごせないポイントの一つが、NHKが制作・放送しているところ。時期的にもデリケートなストーリーを、渡辺あやさんやプロデューサーをはじめとした熱量の高い関係者が動き、そしてこのキャスティングしかありえないというような役者がオーディションで集まり、撮影わずか11日間、奇跡というか、生まれるべくして生まれたドラマ。さらにこの写真集、京都のインディペンデント書店・誠光社さんが発売元。

抗うことが目的ではないけど、自動運転な世の中にはしたくない。

¥2,500+税 WEB SHOP

2018-09-20 | Posted in BOOKSComments Closed 

 

TTP




公園の一角にある卓球台。あるときはベンチ、あるときは遊び場、またあるときはスケボーの障害物など、定点観測的に撮影した卓球台は本来の用途を飛び越えて、座るもの、乗るもの、下に潜るものと状況次第で様々に変化して面白いです。

日本人写真家、富安隼久(Hayahisa Tomiyasu)のファースト写真集『TTP』。タイトルの由来は「tischtennisplatte(卓球台)」。当時住んでいたドイツ、ライプツィヒの学生寮、8階の南向きの部屋から見渡せる公園に置かれた卓球台に焦点を当て、デッドパン・スタイル(主観や感傷、ドラマチックな誇張を可能な限り抑え、対象を客観的、中立的に描写する手法)を用いて撮影しています。

環境やモノが人や動物に「行為」を促す性質、アフォーダンスについても考察したくなる一方、ずっとその場に置かれ昼夜問わず様々な用途を提供する卓球台がだんだん健気に思えてくるのは、物にも魂が宿ると考える日本人的感覚なのでしょうか。そういう見方だと最後はちょっと切ないです。

イギリスの出版社MACKが主催する、過去に写真集出版経験の無い作家の出版支援を目的とする「First Book Award」の2018年グランプリ受賞に伴い刊行。

¥5,550+税 WEB SHOP

2018-06-24 | Posted in BOOKSComments Closed