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TTP




公園の一角にある卓球台。あるときはベンチ、あるときは遊び場、またあるときはスケボーの障害物など、定点観測的に撮影した卓球台は本来の用途を飛び越えて、座るもの、乗るもの、下に潜るものと状況次第で様々に変化して面白いです。

日本人写真家、富安隼久(Hayahisa Tomiyasu)のファースト写真集『TTP』。タイトルの由来は「tischtennisplatte(卓球台)」。当時住んでいたドイツ、ライプツィヒの学生寮、8階の南向きの部屋から見渡せる公園に置かれた卓球台に焦点を当て、デッドパン・スタイル(主観や感傷、ドラマチックな誇張を可能な限り抑え、対象を客観的、中立的に描写する手法)を用いて撮影しています。

環境やモノが人や動物に「行為」を促す性質、アフォーダンスについても考察したくなる一方、ずっとその場に置かれ昼夜問わず様々な用途を提供する卓球台がだんだん健気に思えてくるのは、物にも魂が宿ると考える日本人的感覚なのでしょうか。そういう見方だと最後はちょっと切ないです。

イギリスの出版社MACKが主催する、過去に写真集出版経験の無い作家の出版支援を目的とする「First Book Award」の2018年グランプリ受賞に伴い刊行。

¥5,550+税 WEB SHOP

2018-06-24 | Posted in BOOKSComments Closed 

 

いのちの花、希望のうた


画家と詩人の兄弟ふたりによる画詩集『いのちの花、希望のうた』。

兄の岩崎健一が描く花は、花弁の一枚、葉脈の一筋までを丹念に緻密に捉えていて、慎ましくも力強く輝いています。鮮やかな色彩はいのちを咲かせる喜びの色。画家の花への敬愛が伝わってきます。

弟の岩崎航の五行詩は、勇気と希望と慈しみのうた。病と向き合い、日々の営みのなかで生まれた、五行の短い言葉の連なりは、目で耳で再生されるたび心の奥で響きます。


筋ジストロフィーという、身体の筋肉が壊れやすく再生されにくい難病を抱えながら暮らす二人の絵と詩は、生きた証として、また生きる中で見出した光として創作されたもの。自分自身と向き合うための純粋な創作活動はストレートに胸を打ちます。

あなたへの、そして大切に思う誰かへの花束として。

1,700+税 (WEB SHOP

2018-06-08 | Posted in BOOKSComments Closed 

 

みんぱくの図録


文化人類学・民族学の研究所であり、世界最大級の博物館機能を備えた国立民族学博物館、通称みんぱくの展覧会図録がいくつか入荷しました。

『太陽の塔からみんぱくへ – 70年万博収集資料』 ¥1,600+税

大阪万博を2年後に控えた1968年、世界の諸民族の資料を収集するというミッションに限られた予算と時間のなかで取り組んだ「万博資料収集団」。彼らが1968年から1969年にかけて収集した世界各地の標本資料や活動の様子を紹介した一冊。60年代後半から70年代にかけて世界が大きく動いていく状況のなかでの民族文化や地域社会の様相を描き出す。

『イメージの力』 ¥1,600+税

歴史を通じて人間が生み出してきた様々なイメージ。そのつくり方や受けとめ方に、人類共通の普遍性はあるのか。 みんぱくが所蔵するコレクションのなかから約600点の造形を精選。

『ビーズ』 ¥1,100+税

飾り玉、数珠玉、トンボ玉などを総称するビーズ。人類がつくりだした最高の傑作品のひとつであるビーズについて、つくる楽しみ、飾る楽しみをとおして世界の人びとにとってのビーズの魅力を紹介。

『現れよ。森羅の生命 – 木彫家 藤戸竹喜の世界』 ¥1,800+税

旭川を拠点に「熊彫り」を生業としていた父のもとで、12歳から木彫を始めた藤戸竹喜(ふじと たけき)は、父祖の彫りの技を受け継ぎながら、熊をはじめ狼やラッコといった北の動物たちと、アイヌ文化を伝承してきた先人たちの姿を木に刻み、繊細さと大胆さが交差する独自の世界を構築。卓抜なイメージ力・構想力とともに、生命あるものへの深い愛情に根ざした生気あふれる写実表現。 動物たちの俊敏な動きをとらえた初期作から、民族の歴史と威厳をモニュメンタルに伝える等身大人物像まで、70年にわたる創作活動の軌跡とその背景をたどった作品集。

『屋根裏部屋の博物館』 ¥2,762+税

実業家・渋沢敬三が学問への憧れを捨て去れず、自邸内の物置にアチックミューゼアム(屋根裏部屋の博物館)を設け、玩具から始まり、庶民の生活資料の収集と調査を行った。このような資料を渋沢は「民具」と命名し、日本の民具研究から周辺諸民族の物質文化の比較研究へと研究領域をひろげ、独自の渋沢民俗学を形成した。アチックミューゼアムの民具と民具研究の思想がうかがえる一冊。

『なかはどうなってるの? 民族資料をX線でみたら』 ¥667+税

人間が多様な素材からつくる道具の数々をX線写真で観察すると…。モノのもつ魅力のあらたな発見。 民族資料にX線透視調査を行い、実物とX線写真を比較しながら,モノの中に秘められた様々な側面を紹介。外見たけでは気がつかなかった発見や、これまでとは違ったモノの見方ができる一冊。

 

今日、世界の辺境・秘境へ手元のスマホ画面のなかでも訪れることができますが、もう一歩深く分け入りたいと思ったとき、みんぱくを訪れて文化の多様性を肌で感じてみるのもいいかもしれません。テクノロジーの進歩とともに手放してしまうには惜しい人類の英知の一端、まずは図録で探求してみてください。

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2018-05-10 | Posted in BOOKSComments Closed 

 

川はゆく

写真家にとって広島をテーマにすることは「ヒロシマ」を表現することと切り離せない。土門拳は『ヒロシマ』(1958)で被爆者を通してその非人道性をあぶり出し、石黒健治は『広島』(1970)で高度経済成長下で風化する記憶を淡々と描写し、76年に撮り始めた土田ヒロミのヒロシマ三部作は年月をかけた記録写真で、石内都の『ひろしま』(2008)は静かに美しく被爆遺品をとらえた亡き人のポートレート。

そして戦後70年が過ぎた現在の広島を撮り下ろした写真家・藤岡亜弥さんの『川はゆく』(2017)。マツダスタジアムを埋め尽くすカープファン、賑やかなフラワーフェステバル、路面電車、本通り商店街、基町アパート、テレビに映った大統領当選のニュース、燃えるような夕焼け。広島にいるとなかなか気づかないけれど、どの風景もヒロシマ。市内を流れる川の流れのように、この瞬間も絶えず時代とともに街も人も流れている。
広島生まれの藤岡さんが向き合い生まれたこの写真集は数年後、どのような意味を投げかけてくるのでしょうか。

『川はゆく』¥5,000+税

2018-05-09 | Posted in BOOKSComments Closed 

 

阿部海太の本


埼玉出身、神戸在住の画家・阿部海太さんの描き下ろし絵本『みずのこどもたち』。人、動物、生き物すべての根源にある「水」をテーマにした一冊。光輝く緑は滋養に満ちた水の色。脈々と命をつなぐ水は人知を超えた意志を持っていて、この世界をつくっている母なる存在。ひとつひとつの命は繋がっていることを教えてくれています。



キャンバスいっぱいに広がった躍動感のある原画は、あまりのエネルギーに見ているとくらくらするほど。モニター画面では伝わらないマジカルで鮮烈な色彩に、もう一つの世界に交信するような感覚をおぼえます。

阿部海太さんは東京藝術大学でデザインを学びますが、ずっと好きだった絵の世界に飛び込むため、卒業後ドイツに渡ります。その1年後、新たな環境を求めてメキシコへ。そこでフォークアートと出会います。西洋美術の価値観とは全く異なる、原始的で力強い土着の民衆芸術に触れ、だんだんと自分自身が描きたい世界に近づいていきます。

帰国後、絵画や絵本の制作を開始。2012年には写真家、デザイナー、装丁家とともに、本作りから販売を行うインディペンデントレーベル「Kite」を結成。ブックフェアへの出展、ギャラリーでの個展など精力的に活動を始めます。


2016年にリトルモアから刊行された『みち』。どこまでも続く道。幻想の世界。出てくる言葉は「あるく」と「はしる」の2語のみ。元々は私家版として生まれたタイトルでしたが、一部のインディペンデント書店で話題を呼び、その後、新装改訂版としてメジャーデビュー作となりました。絵本作家としての活動の原点とも言える一冊です。


「意識のめざめ」をテーマにした『めざめる』。朝めざめて夜ねむる。まぶしい光、そよぐ風、夢のなかのもう一人の私。当たり前のように過ごしているこの世界の不思議にめざめる。言葉を学び、知識を得ていくにしたがって忘れてしまう、あらゆる「初めて」と対峙した瞬間に呼び戻してくれるようです。


天地誕生や人間のはじまりといった世界各地に残る創造神話を、阿部さんの絵とともに紹介するイラストブック『はじまりが見える世界の神話』。北欧神話、マオリ族の神話、琉球神話など遥か昔から脈々と、時代の中で一部を失いながら語り継がれてきた物語。阿部さん自身も強く惹かれている神話世界を想像力豊かに描いています。

2016年の『みち』以降、立て続けに4タイトルの絵本を出版社から刊行する一方で、Kiteとしての活動やリトルプレスの制作も続けています。親交のある東京の書店・SUNNY BOY BOOKSとともに作った『All Seeing Eye』は『みずのこどもたち』のスピンオフ作品集。白黒の油彩で描かれた静寂の世界。


2017年にKiteから刊行された『pinhole』。情景と記憶、その限られた空間に現れる一瞬をほのかに照らす一冊。ミシン綴じの本のページは幅が短かったり、窓のある函から覗く絵は少し厚めのカードだったりと、凝った造本はKiteの真骨頂。

阿部さんの作品が放つ生命力に、二次元に命を与えること、絵を描くことの神秘性について思いを巡らせます。阿部さんは絵を通して、目には見えない、科学や数字で現すことができない、この世界の普遍に迫っているようです。

2018-04-25 | Posted in BOOKSComments Closed