EXHIBITION & EVENT

鈴木萌 写真展「SOKOHI 底翳」

東京出身在住のビジュアルアーティスト・鈴木萌さんの作品集『SOKOHI』は、緑内障を患った父親から託されたノートやアーカイブ写真を起点に、徐々に視力を失っていく父親を記録する中で生まれました。かつて編集者として活躍し、本と文字に囲まれていた父親が、徐々に視力を失っていくなかで、その事実とどのように向き合っているのか。

2020年に76部限定で刊行された自主制作のアートブックは、海外の国際写真フェスティバルの受賞をきっかけに、フランスの出版社Chose Communeから新装版が刊行されました。今回はその刊行を記念した展示を行います。また、会期初日は、鈴木さんとも親交のある写真家・藤井ヨシカツさんをお招きして、写真集制作の背景に迫るアーティストトークを開催いたします(参加無料 / 予約のお客様優先)。

底翳

「底翳」(そこひ)とは、底にある翳、眼球内に潜む翳、つまり何らかの眼内部の異常により視覚障害をきたす目の疾患の俗称として江戸時代から使われてきた。そのうち、緑内障にあたる言葉は「青底翳」(あおそこひ)と呼ばれた。末期には角膜が地中海のように青緑色のようになり失明するという、ヒポクラテスの記述に語源があるとの一説もある。そうした長い歴史にも関わらず、現代の視覚障害の一番多い原因疾患である緑内障の病態は、その原因や治療法にいたるまでいまだ完全な解明がされていない。

14年前に緑内障の診断を受けた父の場合も、点眼薬や手術による眼圧のコントロールの甲斐無く、視野狭窄がゆっくりと、そして確実に進行している。昨日よりも少し暗い朝に起き、物を取ろうとする手は宙を泳ぐ。

父はかつて、ありとあらゆるものをノートに書き留める人だった。旅先で写真もたくさん撮った。50年以上にもわたる編集者としてのキャリアは、常に膨大な本と文字に囲まれていた。そんなかつての生き方とは裏腹に、緑内障により少しずつ視力を失いつつある今は、書くことも読むことももはやその意味をなさなくなってしまった。

視野が狭くなっていく自分の境地を、静かに淡々と受け入れているかのように見える父はその一方で、差し込んでくる光を離すまい、失うまい、と必死で病の進行に抗う一面をふとした瞬間に外に出すことがある。だが自分の周囲に壁をしっかりと築き、父が見えないものが見えて、父が見ているものを同じようには見ることができない他者からは単なる同情や共感を簡単には寄せつけない。

その壁の隙間からそっと覗くと、そこには、底に潜む翳の淵を時には頼りなく、しかし時には新しい認知を求める確かな足どりで、出たり入ったりする父の姿が見え隠れする。父の失明への旅は、まるで翳と光の間を行ったり来たりする波のように進んでいる。

鈴木萌

東京出身在住。London College of Communications ,University of the Arts London卒業。
2011年に日本に帰国後、製本技術を習得しながらアーティスト活動を開始する。写真/アーカイブ/イラスト/インスタレーション/製本を織り交ぜ、家族や地域、宗教、コミュニティなどの共同体における記憶や風景の変化を主なテーマに作品を制作。父の中途失明をテーマに表現したアーティストブック「底翳」はドイツKassel Dummy Award2020でSpecial Mention、及びフランスLuma Rencontres Dummy Award 2021を受賞を経て2022年にフランスの出版社Chose Communeより出版。東京、京都、シンガポール、北アイルランド、オーストラリアなどで展示された。
https://www.banyan-b-i.com/

鈴木萌 写真展「底翳 SOKOHI」
会期:2/19(日)〜3/6(月) ※初日作家在廊

鈴木萌 × 藤井ヨシカツ アーティストトーク

会期初日の2/19(日)、作品集『SOKOHI』の制作背景、プロセスについて鈴木萌さんにお話をお聞きする、参加無料のアーティストトークを開催いたします。すでに完売となっている2020年版「底翳 SOKOHI」を見ながら、どのようにして作品を一冊にまとめていくのか。トークのお相手として、手製本による写真集がニューヨーク近代美術館の図書館にも収蔵されている、広島出身の写真家・藤井ヨシカツさんをお招きします。

藤井ヨシカツ
写真を表現媒体としたビジュアル・ストーリーテラー。記憶、家族、事件や歴史をテーマとした長期プロジェクトに取り組んでいる。少部数限定の手製本による写真集を主な発表媒体とし、2014年パリフォト・アパチャー財団写真集賞ノミネート、2015年Self Publishing PHOTOLUX Award受賞、2018年The Anamorphosis Prize受賞。ニューヨーク近代美術館(MoMA)図書館やヴィクトリア&アルバート博物館をはじめ、各国の美術館や大学図書館に作品が収蔵されている。2015年に故郷の広島に拠点を移して以降は、被爆3世である自身の視点から広島と戦争の歴史をテーマとして制作を行っている。
https://www.yoshikatsufujii.com/

日時:2/19(日)17:00〜18:00
定員:10名前後(予約のお客様優先)
場所:READAN DEAT

【お申込み方法】
以下のコンタクトフォームに題名を「SOKOHIトーク」として、メッセージ本文に
1. お名前
2. お電話番号
3. 参加人数
をご記入の上お申し込みください。

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    2023-02-02 | Posted in EXHIBITION & EVENTComments Closed