EXHIBITION & EVENT

『BENZO ESQUISSES 1920-2012』展

1920年に北海道で生まれた井上弁造さんは、2012年に92歳で逝くことになる。

遠い少年時代、北海道開拓の過酷な生活のなかで絵を描くことに目覚め、通信制の似顔絵講座からはじまった絵描きへの夢は、弁造さんの人生そのものだったといえるだろう。

ただ、人生は思い通りにいかないことの方が多い。誰の人生にもあることだが、弁造さんは結局、自らの夢を叶えることができなかった。一生を通じて絵を描き続けたにもかかわらずたった一度の個展を開くこともなく逝ってしまった。果たして、そのような人を“絵描き”と呼んでいいものかと迷うときもある。そんなとき、僕は決まって弁造さんが暮らした小さな丸太小屋に遺されていた膨大なエスキース(習作)を思い起こす。晩年の弁造さんはエスキースばかり描き、絵を完成させることをしなかった。「自らの理想とする絵に近づくために」というのがその理由だったが、執拗にエスキースを描き続けた弁造さんの姿を思い返すと、僕には別の目的があったのではないかと思えてくる。弁造さんは最期まで切実な思いを持って絵を描き続けるために、最期まで絵を描くことを愛していると言い放つために、絵を完成させなかったのではないだろうか。

 弁造さんが逝って今年で11年目、僕は変わることなく弁造さんが遺した庭に立ち、「弁造さん」という存在を僕のなかに取り込んでいった。僕はそうすることでしか、弁造さんが生きることが遠ざかるのを防ぐことができなかった。でも、今思うのは、庭と絵を愛し続けたその人生は弁造さんのものだ。この気づきがカメラをエスキースに向けるという行為のはじまりでもあった。

今日、エスキースを弁造さんに返そうと思う。

奥山淳志

北海道の丸太小屋で自給自足の暮らしのなかで絵を描き続けた弁造さん。長年、弁造さんの元へ通い続けた写真家・奥山淳志さんは、手元に残された弁造さんのエスキース(習作)を、一冊の本『BENZO ESQUISSES 1920-2012』にまとめました。それはスタジオで撮影するのではなく、弁造さんが愛した庭にイーゼルを置いて撮影した、奥山さんの弁造さんへの想いも込められた、ふたりの作品集です。

今回、本書の刊行を記念して、弁造さんのエスキースを展示販売いたします。奥山さんは著書『庭とエスキース』の中で、弁造さんと過ごした時間をあたたかな筆致で残しましたが、その結果、多くの読者が弁造さんを知ることになり、彼の人生を想うことになりました。

“ずっと、「弁造さん」は僕の弁造さんでした。しかし、僕が不思議な縁で巡り合うことができた「弁造さんの生きることを見つめた日々」を写真や言葉で表現していく過程で、「弁造さん」は「みんなの弁造さん」になっていきました。この奇跡(僕はいまだにそう思います)を思うと、弁造さんが遺したエスキースも「みんなのエスキース」になることができるのではないか、そう考えるようになっていったのです。”

奥山さんを通して手渡される弁造さんのエスキース。弁造さんの笑顔が思い浮かびます。

『BENZO ESQUISSES 1920-2012』展
8/17(土)〜9/1(日) ※初日に奥山淳志さん在廊

【8/17 土 奥山淳志 スライドトーク】

初日に奥山さんのスライドトークを行います。

日時:8/17(土) 18:30 ~ 19:30 (受付18:00〜)
会場:READAN DEAT
定員:20名
料金:1,000円

【お申込み方法】
以下のコンタクトフォームに題名を「奥山さんトーク」として、メッセージ本文に
1. お名前 2. 参加人数 3. 電話番号 をご記入の上お申し込みください。
また、お電話(082-961-4545)でも受付けております。

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    2024-08-03 | Posted in EXHIBITION & EVENTComments Closed